日本ローカーボ食研究会

日本ローカーボ食研究会

第3回定期勉強会で検討した症例

「ローカーボ食実行とDM薬の減量に伴って著しい体重と血糖コントロール悪化が起こった症例にどう対応するか?」

H.M. 64歳 男 無職 

診 断:2型糖尿病、高血圧、脂質異常
現病歴:名古屋市内の総合病院へ通院、HbA1c7.0%前後(アマリール1mgとアクトス30mg内服)であったが、体重増加と顔面浮腫があった。転職に伴って医療機関の変更。

4月8日初診、内服薬は上記+ゼチーア10mg、リピトール10mg、ベザテートSR20mg、コニール8mg、ミカルディス40mg。
初診時血圧 177/98mmHg、体重90.3kg、身長178cm、BMI:28.5
初診時の検査:血糖150mg/dl(夕方5時30分)、HbA1c7.5%(NGSP)
患者の都合から、5月12日からローカーボによる治療開始。アクトスとザイロリック中止。

5月12日、体重89.0kg、HbA1c7.5%、145/85mmHg、尿酸9.5、Cr1.18(eGFR:49)、尿アル197mg/g Cr、TG:292、HDL:50、LDL:157、抗GAD抗体<0.3
OGTT75g:血糖値/インスリン(mg/dlとIU/ml):150/6.92(0分),240/14.7(30分),338/32.7(60分),309/23.9(120分)、HOMA-IR: 2.6
 腹部CTで膵臓は異常なし。
1CARDを開始、処方は①ゼチーア10mg、②アマリール1mg、③ミカムロAP、ナトリックス1mg

開始前の食事日記の解析から:2234kcal、蛋白(P):脂質(F):炭水化物(C) (g/日) = 86:57:286、P:F:C(%)=15:23:51

6月10日、家庭血圧測定で127-145/77-85(早朝血圧)
HbA1c8.2%、体重88.0kg、1CARDを遵守、朝も米食の量を減。

7月15日、家庭血圧測定で早朝130-135/70台 HbA1c9.1%、体重85.8kg、管理栄養士から食事を遵守している→アマリール中止。

8月19日、 HbA1c11.3%、空腹時血糖値288mg/dl、体重82.4kg、尿中ケトン体+(ケトーシスではなく、前日の午後から炭水化物摂取なしによる)、口渇や多飲はまったくなし、CARD遵守。TG:467、HDL:42、LDL:152

食事日記の解析から:1697kcal、P:F:C(g/日) = 69:50:181、P:F:C(%)=16:26:43
患者は、体重が7kgも減って(アマリールとアクトスの影響)、体が軽くなり、表情は明るくなった。HbA1cは悪化したが、悪くなったという悲壮感は全くなく、すがすがし印象。

症例検討の主要なテーマ:

1)何か見落としはないか
2)CARDを忠実に実行、体重は低下しているのになぜHbA1cは悪化?
3)8月19日の異常な空腹時血糖値の上昇はなぜ?
4)8月以降の治療方針をどうするか?

その後の経過と考察

1.栄養学的変化

炭水化物摂取量は286→181g/日まで低下しており、それによって総摂取カロリーも2234→1697kcalまで低下。その低下のほとんどが炭水化物摂取の低下によっている。指導したにもかかわらず、その割に脂質摂取は増えていない。これは、ローカーボを指導したときに最も多いパターンである。年齢的に脂肪摂取が不得手なこととローカーボによって食欲がかなり低下することが原因と考えている。

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2.血糖コントロール悪化の原因

 このようにローカーボを忠実に実行しているにもかかわらず、HbA1cと不釣り合いの異常な空腹時血糖値の上昇を伴う血糖コントロールの悪化は、おそらく肝臓での糖新生の増加によると考えられる。ローカーボでは、とくに夕食での炭水化物を除去するので、インスリンは夜明けまでほとんど分泌されず、それに反応して肝臓で糖新生が増加することが実験的に知られている。この患者の場合、アマリールとアクトスによりHbA1c7.6%にコントロールされていたが、肝臓は低血糖を予防するために糖新生能力が潜在的に高かくなっていたのかも知れない。

3.治療方針

 その治療は、①肝臓での糖新生を抑制するメトグルコ ②寝る前にランタスの自己注射などが挙げられる。また、もう一つの方法として、三食炭水化物制限によって、朝~夜までも含めて徹底的に血糖値を下げるローカーボ単独治療もありうる。それによって糖毒性が抑制されれば、HbA1cは下がるに違いない。ただし、このような治療法は長くは続けられないので、1-2か月間に限定すべきである。
 この症例では、メトグルコ1.5g/日の内服で急激にHbA1cは改善した。ローカーボである程度HbA1cが改善しているが、今一歩というときにメトグルコの後押しは絶大な威力を発揮する。経験的にローカーボとメトグルコの相性はきわめてよい。そのような研究も海外から発表されている。

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4.その他の課題

ワークショップでのその他の主な議論は、1)甲状腺機能亢進症、癌などが潜在していないかが話題となった。腹部CTと胸部XPで異常はなかったが、甲状腺機能をチェックしていなかった。2)血清脂質、とくに中性脂肪の改善がないどころか、ローカーボ実行後に悪化したのは、たぶんアルコール多飲によると考えられた。ローカーボは中性脂肪を下げるが、それ以上にアルコールは中性脂肪を上昇させるので、大酒家のローカーボ治療では要注意である。

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