日本ローカーボ食研究会

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食事ではLDL-コレステロールはほとんど下がらない

灰本クリニック 灰本 元

 わたしのLDL-コレステロール値は60歳までは何も特別な苦労をしなくても100mg/dl以下を10年以上も保ってきたのですが、60歳を超えたあたりから次第に上がって今年は150前後となりました。

正常値は70-140です。ゆるやかな糖質制限食は15年間かわらずに続けていますし、最近の数年間は余暇に運動も始めています。それでも上がってしまうのは老化とあきらめるしかありません。
 悪玉と言われていつもかわいそうなのがLDL-コレステロールです。人体のなかでは細胞膜の構成成分というりっぱな役割があります。たしかに、血液のLDL-コレステロール値が高いと心筋梗塞になりやすいは事実ですが、喫煙、高血圧、糖尿病の3つの危険因子のどれも持っていない人では、たとえ高くても心筋梗塞を発症することはまれです。一方、大規模な研究によると日本人ではLDL-コレステロール値が70未満になると脳出血や癌が増えるようです。
 糖尿病がある人ではLDL-コレステロール値が140でもきわめて危険で、世界的には90まで下げることになっています。当院では100-130まで薬で下げていた糖尿病患者さんでもたしかに心筋梗塞は発症してしまうので、数年前から徹底して90以下に下げています。そこまで下げるとほとんど発症しません。
 そのような患者さんにスタチンというコレステロールを下げる薬を開始するとき、薬を飲みたくないのでなんとか別の方法がないものか、そのような質問を毎回受けます。HDL-コレステロール(善玉)を上げる方法は運動あるいはゆるやかな糖質制限食を続けると確実に上昇しますが、LDL-コレステロールを下げる方法はなかなかありません。
 灰本クリニックの最新のデータによると、139人の男性糖尿病患者さんがゆるやかな糖質制限食を続けてもせいぜい1mg/dl程度しか下がりません。アメリカ臨床栄養学会誌2019年1月号にLDLコレステロール値を下げるために食品に含まれるコレステロールを減らす食事療法をおこなった60編の研究を総合的に解析すると、食事中のコレステロールを200mg(卵一個に含まれる)ほど制限しても、血液のLDL-コレステロール値はわずか4mg/dlしか下がらないと結論づけています。卵2個減らしてもせいぜい8下がる程度で、食事中のコレステロールをがんばって減らしてみても心筋梗塞を予防するまでには至らないことがわかります。
 それに比べて、スタチンという薬はジェネリックを使うと半錠(7円)ときわめて安価ですが、なんとLDL-コレステロール値を40mg/dlも下げ、1錠15円では80も下げることができます。わたしの150を90以下までさげるのにわずか1日10円の費用しかかからないのです。20年飲み続けても3割負担では約4万円の薬代です。ところが、心筋梗塞や狭心症で一泊入院して冠動脈にステント(血管を広げる金具)を入れると、3割負担で100万円という膨大な費用がかかります。胃癌の手術を受けて10日入院してもせいぜい50万円程度ですので、心筋梗塞に治療費用は破格に高いことがわかります。それに100万円は自己負担であって、残りの200万円はわたしたちの税金なのです。
 このような科学的事実と医療経済を踏まえると、わたしは患者さんに食事や運動でがんばるのは糖尿病治療、体重減量など別の目的につかって、LDL-コレステロール値を下げる目的ならスタチンを飲むのが一番正解と説明しています。ちなみに、スタチンの化学名はHMG-CoA還元酵素阻害薬、その発見者は日本人(1973年)、製品化はアメリカで行われました。発見者は常にノーベル賞候補に上がっています。

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