日本ローカーボ食研究会

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98.非アルコール性脂肪性肝炎に対するピオグリタゾン,ビタミンE,プラセボ

Pioglitazone, Vitamin E, or Placebo for Nonalcoholic Steatohepatitis  
N Engl J Med 2010;362:1675-85.

【背景】
 非アルコール性脂肪性肝炎は肝硬変に進行し得る一般的な肝疾患である。現在、この疾患の確立された治療法はない。

【方法】
 非アルコール性脂肪性肝炎で糖尿病のない成人247人を、96週の間、毎日30 mgの用量のピオグリタゾン群(80人)に、毎日800 国際単位の容量のビタミンE群(84人)に、またはプラセボ群(83人)に無作為に割り当てた。主要なアウトカムは、脂肪化、小葉の炎症、肝細胞バルーン形成、および線維症のための標準化されたスコアの複合体を使用して評価した非アルコール性脂肪性肝炎の組織学的特徴の改善とした。計画された2つの主要な比較を考慮すると、0.025未満のP値は統計的有意性を示すと考えられた。

【結果】
 ビタミンE療法はプラセボと比較して非アルコール性脂肪性肝炎の改善率が有意に高かった(43%対19%、P = 0.001)が、プラセボと比較してピオグリタゾンとの改善率の差は有意ではなかった(それぞれ34%および19%; P = 0.04)。プラセボと比較して、ビタミンEおよびピオグリタゾンで血清アラニンおよびアスパラギン酸アミノトランスフェラーゼレベルが低下し(両方の比較についてP <0.001)、肝臓脂肪化の減少(ビタミンEについてP = 0.005、ピオグリタゾンについてP<0.001)と小葉の炎症の減少(ビタミンEはP = 0.02、ピオグリタゾンはP = 0.004)に関連していたが、線維化スコアの改善はみられなかった(ビタミンEはP = 0.24、ピオグリタゾンはP = 0.12)。ピオグリタゾンを投与した被験者は、ビタミンEまたはプラセボを投与した被験者よりも体重が増加した。他の副作用の割合は3つのグループ間で類似していた。

【結論】
 ビタミンEは、糖尿病のない成人の非アルコール性脂肪性肝炎の治療のためのプラセボより優れていた。主要アウトカムにおけるプラセボに対するピオグリタゾンの利点はなかった。しかし、副次的アウトカムのいくつかについて、ピオグリタゾンの有意な利益が観察された。

【本文の背景のより抜粋】
 非アルコール性脂肪性肝炎は、肝臓脂肪化、小葉の炎症、および肝細胞バルーン形成によって組織学的に特徴付けられる一般的な肝疾患である。その患者の15%までが肝硬変に進行し得る。現在のところ、非アルコール性脂肪性肝炎の治療効果は証明されているものはない。この疾患は、肥満、高トリグリセリド血症、および2型糖尿病などのインスリン抵抗性およびメタボリックシンドロームの特徴と密接に関連している。インスリン抵抗性に加えて、酸化ストレスは、非アルコール性脂肪性肝炎患者の肝臓損傷に寄与する重要な因子として関与している。したがって、インスリン抵抗性および酸化ストレスの両方が、この疾患の患者の治療にとって魅力的な標的である。いくつかのパイロット研究では、チアゾリジンジオンのようなインスリン増感剤、およびビタミンEのような抗酸化剤が、非アルコール性脂肪性肝炎の臨床的および組織学的特徴を改善するという証拠を提供している。しかしながら、利点の医学的証拠は限られている。なぜなら、これらの研究は小さなサンプルしかなく、単一の施設で実施されたからである。さらに、最近の多施設試験では、肝脂脂肪化の減少が示されたが、ロシグリタゾン療法の1年後の細胞傷害マーカーの改善は見られなかった。これらの薬剤の価値は依然として不確実である。

【感想】
 非アルコール性脂肪肝炎(NASH)の治療は、体重の減量のみが有益かつ安全である十分な証拠がある唯一の治療法と言われています。当院のローカーボ食も肥満の患者さんには有効と思われますが、肥満のない、あるいは痩せのNASH患者さんには有効な治療法がないのが現状です。多くの薬剤の効果が否定される中、唯一残っているのがこのビタミンEであり、期待されているのですが、一方で、高容量ビタミンEが全死亡率を上昇させるという報告もあります(Meta-Analysis: High-Dosage Vitamin E Supplementation May Increase All-Cause Mortality Ann Intern Med. 2005;142:37-46.)。肝硬変に移行するリスクは、肝生検を行うことである程度明らかになるものの、全員に侵襲性の高い肝生検を行うわけにもいかず、AST・ALTが正常上限の2倍以上の方に限定し、400国産単位/日未満の使用にとどめるのが妥協点であると考えています。

(文責:灰本耕基)

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