日本ローカーボ食研究会

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206.バレット食道患者における腺癌の発症

Incidence of Adenocarcinoma among Patients with Barrett’s Esophagus
N Engl J Med. 2011 Oct 13;365(15):1375-83. doi: 10.1056/NEJMoa1103042.

要約

【背景】
 バレット食道患者の食道腺癌および高度異形成の発生率に関する正確な集団ベースのデータが必要だ.

【方法】
 我々はデンマーク病理登録簿とデンマーク癌登録簿からのデータを使用し,1992年から2009年までの期間のデンマークのバレット食道患者全員を対象とした全国規模の集団ベースのコホート研究を実施した.我々は、腺癌および高度異形成の発生率(1000人年あたりの症例の数)を決定した.相対リスクの尺度として,標準化された発生率は調査期間中のデンマークの全国癌率を用いて計算された.

【結果】
 バレット食道を有する11,028例の患者を特定し,そのデータを5.2年間の中央値で分析した.検索的な内視鏡検査後の最初の1年以内に131例の腺癌が新たに診断された.その後の年に,66の新しい腺癌が検出され,腺癌の発生率は1000人年当たり1.2症例(95%信頼区間[CI],0.9〜1.5)となった.一般人のリスクと比較してバレット食道患者の腺癌の相対リスクは11.3(95%CI,8.8-14.4)であった.食道腺癌の年間リスクは0.12%(95%CI,0.09-0.15)であった.検索的な内視鏡検査での低悪性度の異形成の検出は,1000人年あたり5.1症例の腺癌の発生率と関連していた.対照的に,異形成を伴わない患者からの発症率は1000人年あたり1.0例であった.高度異形成を有する患者のリスク推定値はわずかに高かった.

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【結論】
 バレット食道は食道腺癌の強い危険因子だが,0.12%という絶対的な年次リスクは現在のサーベイランスガイドラインの基礎となる0.5%の想定リスクよりもはるかに低かった.現在の研究からのデータは,異形成を伴わないバレット食道を有する患者における進行中のサーベイランスの根拠を疑問視するものである.

【感想】
 昨年秋頃だったか,人間ドックの医師から「胃カメラでバレット食道があるので食道癌の予防のために胃薬(PPI)を内服した方がいい」と言われたという患者さんが当院を受診した.確かに逆流性食道炎やバレット食道は食道腺癌のリスクではあるが,私の十年に及ぶ消化器内科医の勤務医時代には,バレット食道のフォローアップ中に食道腺癌を発症した症例には遭遇することはなかった.この論文が示すように年次リスク0.12%というのは納得のいく数字だ(10年間経過観察しても1.2%).さらに東洋人は欧米人よりも食道腺癌は少なく,この年次リスクよりもさらに低い値であると推測される.食道腺癌の予防のために副作用の多いPPIを長期投与するなど(1-2年の投与で総死亡率が51%増加,BMJ Open 2017;7:e015735.),もってのほかであると言える.せいぜい数年おきの内視鏡でのフォローアップを行うだけでよいだろう.

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