日本ローカーボ食研究会

日本ローカーボ食研究会

第三回学術集会の印象記(医師から)

セミナー参加の印象記 (医師)

小早川医院 内科医  小早川裕之

 1月27日の日曜日の午後、名古屋駅前の安保ホールで第3回学術集会が開催されました。医師、栄養士、看護師など、合わせて70名近い参加者があり、盛会となりました。参加者は回を追うごとに増えており、またローカーボの食品を扱う協賛業者の数も増加傾向で、ローカーボ食に対する関心の高まりが感じられました。

 冒頭で、植物生理学がご専門の加藤潔先生が「生命の進化における炭水化物の意義」という壮大なテーマで講演されました。ヒトをはじめとする真核細胞のエネルギー代謝や有機化合物の合成過程は基本的には真核細胞の誕生に関わった種々の細菌の代謝経路を引き継いでおり、炭水化物の代謝経路は細胞の代謝の基幹経路となっていること明らかにされました。また、脂肪酸の酸化やアルコールの解毒処理により肝細胞内のアセチルCoAが増加する局面では、オキザロ酢酸を適度に補充しないとアセチルCoAのTCAサイクルでの処理が滞り、過剰のアセチルCoAは内臓脂肪、コレステロール、ケトン体の合成に向かうことを、メタボリックマップに基づいて明快に解説されました。オキザロ酢酸は解糖系のみから供給されるので、厳しい炭水化物制限や炭水化物をほとんど含まない蒸留酒の大量摂取は様々な弊害を生ずる可能性が高いことを指摘されました。

 灰本クリニックの灰本元先生は、極端な炭水化物制限は総死亡・ガンによる死亡・心血管死を増やすので危険であることを改めて強調されました。そのうえで、糖尿病の重症度(すなわちHbA1cの値)によって炭水化物制限の程度を決定するのが合理的であり、大半の患者さんは1日1食の炭水化物を抜く程度のマイルドな制限で十分に治療が可能であると述べられました。

 名古屋ハートセンターの米田正始先生は厳しい炭水化物制限が危険であることを強く示唆する論文を紹介されました。これは、基礎医学の一流の専門誌であるPNAS(Proceeding National Academic Science)に2009年に掲載されたものです。この研究では、動脈硬化のモデルマウス(ApoEマウス)に①低炭水化物高蛋白食(P:F:C(%)=45:43:12)、②一般的な西洋式の食事(P:F:C(%)=15:42:43)、③高炭水化物食(P:F:C(%)=20:15:65)をそれぞれ12週間(ヒトに換算すると約6年間)食べさせて動脈硬化の経過を観察しています。その結果、①の群では他に比べて大動脈の動脈硬化の範囲が明らかに広く、血管を再生させる能力が明らかに低下していることがわかったとのことです。

 これら3人の先生方の講演は、生化学、臨床研究、動物実験とアプローチのは違うものの、いずれも極端な炭水化物の制限が危険であることを裏付けるのに十分なインパクトのあるものでした。過去2回の学術集会ではローカーボ食の長所が強調されることが多かったのに対し、明らかな潮流の変化を実感しました。そして、民間療法としての糖質制限食とは対極にある、「科学的根拠に基づいた正しいローカーボ食」の普及が急務であるとの思いを強くしました。

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